寄附先とそれを選んだ理由 (日本語版)
Contents
- Effective Altruismとは何ですか?
- 「世界をよくする」とは何ですか?
- どの世界的問題に焦点を当てるべきですか?
- 「寄附するためお金を長期的に投資する」の議論
- 私の寄付について
- 寄付額について
- 脚注
Effective Altruism日本チャプターを代表する人として、次の説明をすることが多いです:
- できるだけ世界を良くしたいです。
- ですので、「x」という団体に寄付して、その団体が「y」という世界的問題を解決するように働いています。
本記事では、お金を寄附する時1に何を考えているかについて書きます。
この考え方は、効果的利他主義(Effective Altruism - EA)との共通点が多いですが、「これはEA全体だ」という印象を控えましょう。EAについてより詳しい説明をご覧いただきたい場合、下記はおすすめです。
- Misconceptions about Effective Altruism
- An Introduction to Effective Altruism
- A guide to using your career to help solve the world’s most pressing problems (長い)
Effective Altruismとは何ですか?
世界的問題が多くあって、その問題を解決するための方法も多いです。しかし、人間・お金・時間などのリソースが限っています。
Effective Altruismという社会運動が、そのリソースの使い方の中で、どれが一番世界を良くするのかをコミュニティーとして研究や活躍を行っています。2.
「世界をよくする」とは何ですか?
80,000 HoursというEAに関わっている団体では、下記の定義を使っています3:
道徳のフレームワークについて
「福祉」を唯一の本質的価値4として扱って、それに焦点することは、大まかに功利主義的であると考えられます。行動は、人々や他の衆生の福祉に対する最終的な影響によって、良いか悪いかを判断することができます。
よりハイレベルで考えると、これは有用な出発点であると私は信じています。しかし、福祉に完全に焦点を当てることもおそらく最適ではありません5。
道徳哲学の他の理論は代替案を提供します。実際には、人々は多くの異なるフレームワークの要素を日常の意思決定や行動に取り入れています。他のフレームワークは、下記を含んでいます:
- 義務論:アクションが良いか悪いかを判断するための複雑なルールセットを提供します。
- 徳倫理学:これは、キャラクターを「善良な」人にすることに集中することを奨励します。
- 契約主義:人々がより良い社会を作るのために協力するにつれて、道徳が社会に自然に現れるという見方。
福祉の向上を重要にする場合、それ以外の重要にするべき価値もあり得ることを認識した方が良いです6。
どの世界的問題に焦点を当てるべきですか?
INTフレームワークの紹介
代替案を適切に検討せず、「注目されている」や「友達が活動している」などの理由で、ある世界的問題が一番重要だと思ってしまうことがあります。これは間違いだと思います。 可能な限り世界を良くしたい場合は、複数の世界的問題を調べる価値があります。
EAコミュニティでは、INT(Importance, Neglectedness, Tractability)フレームワークを使用して世界的問題を絞り込み、優先順位を付けます。
Importance(重要性): 何人(そして衆生)がその問題に影響されていますか?その影響はどれぐらい大きいですか?
例:気候変動、特に極端な気候変動の確率が低いリスクは、多くの人々に大きな影響を与える可能性があります。したがって、重要性の基準で高いスコアを獲得します。
Neglectedness(注目度): 問題の解決に、すでにどの程度のリソースが集中していますか?
例:気候変動は多くの注目と多くのリソースを受け取っています。 80,000 Hoursによる、気候変動の防止に年間100〜1,000億ドルが費やされていることを示唆しています7。
気候変動と同じくらい重要かもしれないが、より少ない注意やリソースを受け取っている他の世界的問題があります。それらに集中することによって、自分がより大きな影響を与えられるかどうかを考慮する必要があると思います。
Tractability(扱いやすさ): 問題の解決を進めるのはどんなに難しいですか?
例:「老化」はすべての人に大きな影響を及ぼし、世界的問題として比較的注目度が低いです。 しかし、老化のプロセスを停止または防止することは、伝統的に非常に難しいと考えられています8。
期待値
期待値 = 結果 × 結果の確立
アクションや寄付の「期待値」を考慮することは、その有効性を理解する方法です。「期待値」を計算するための直感が異なる2つの世界的問題を考えてみましょう。
1. グローバルヘルス(小規模な結果、より高い確率)
蚊帳の配布、駆虫、人々への直接の現金提供など、グローバルヘルスにおけるよく理解された介入があります。 多くの介入の場合、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trials, RCT)を通じて、説得力ある証拠があります9。
GiveWellは、グローバルヘルスにおけるチャリティーの有効性を評価する「メタチャリティー」です。4つの基準に基づいてチャリティーの推薦をします:
- 効果の証拠(前述のRCTを使用)
- 費用対効果(独自のモデルを使用)
- 寄付の余地があるか
- 透明性
GiveWellの推奨チャリティーを使用すると、寄付が意図した効果を発揮することをある程度確実に期待できます。現在(2020年11月)のモデルによる、Against Malaria Foundationに5,000ドルを寄付することで命を救うことができます1011。
GiveWellが推奨するチャリティーはこちら。
寄付する団体の選択:正規分布とファットテール分布(追記)
グローバルヘルスで寄付する団体を検討するときは、最も効果的な団体と中央値の有効性のある団体の違いを検討するべきです。
- 正規分布: 最も背の高い人は平均より約50%背が高いです。
- ファットテール分布: 最も収入の高い人々は、平均の何千倍もの収入を得ています。
80,000 Hoursは、「最も効果的な団体が中央値の効果のある団体と比較してどれだけ効果的であると考えていますか」についてアンケートで調査したら、典型的な回答は、最高の団体が約66%効果的である(正規分布)ことを発見しました。 実際の違いは、十倍・数百倍(ファットテール分布)のようなものです。 中央値の団体よりも上位の団体を選択すると、予想される影響に大きな影響を与える可能性があります。
2. 存在リスクの軽減(大規模な結果、より低い確率)
将来には多くの可能性があります。 地球は6億から8億年間までの居住可能な時間が残って、あなたが「素晴らしい」と考えるものは何でも、将来に現時点より遥かに多い可能性があります12。
存在リスクとは、将来の世代が存在できないように人類を完全に排除するか、人類が可能な限り繁栄できないほど大きな損害を与えるというリスクです。この種のリスクには、核戦争、設計されたパンデミック(人を殺すか生殖能力を妨げる)、気候変動の極端なリスク、さらに超絶AIの出現が含まれますが、これらに限定されません1314。
そのようなリスクを軽減する努力は非常に大きな結果を出す可能性があるため、その結果を出す可能性がごくわずかであっても、「期待値」で言うと貢献度がとても高いです。
遠い将来に起こられる世界の状態に焦点を当てるに対する反論もあります。下記に2つを書きますが、こちらの論文でその反論とEA関連組織であるGlobal Priorities Instituteの研究者がどう思っているかについて詳しくご覧いただけます。
- 遠い将来に起こられる世界の状態に取り組むことは手に負えません。
- 遠い将来に存在する人々の福祉は遥かに良くなる可能性が高いので、現時点に存在している人の福祉を改善することに焦点を当てるべきです。
存在リスクの軽減に寄付を振り向けたい場合は、Long-Term Future Fundから始めるのがよいかもしれません。
他の世界的問題
グローバルヘルスと存在リスクの軽減という選択肢がEAコミュニティ内で人気がありますが、他にもたくさんあります。 80,000 Hoursは、「Problem Profiles」という様々な研究を提供します。これを読むことを強くお勧めします。
「寄附するためお金を長期的に投資する」の議論
先験的に評価すると、すべての時間の中で、現時点がお金を寄付するのに最適な瞬間である可能性は低いです。 ある瞬間に世界をよくする機会の大きさは、その瞬間のヒンジ性15(hinginess)だとEAコミュニティーではよく呼ばれています1617。
「Patience and Philanthropy」(現在進行中の作業)の論文で、フィリップ・トラメルはその長所と短所について書いています。
長所:
- 今日1,000ドルを寄付する代わりに、その金を株式市場に投資することができます。年間5%の収益で、その寄付額は100年後に12万5,000ドル、200年後に1,700万ドルになります。
- 寄付の最適な使用方法については、さらに多くの情報が利用可能になります。
- など。
短所:
- 戦争、革命、金融危機により資金が破壊される可能性があります。
- 寄付の最終的な使用は、当初の意図された使用から逸脱する可能性があります。
- 寄付の当初の意図は、後に道徳的に深く誤解されていることが示される可能性があります。
- など。
EA関連組織であるFounder’s Pledgeは、2021年に長期投資ファンドを立ち上げる暫定的な計画とともに、「寄附するための投資」という概念について独自の調査を行っています18。
私の寄付について
一般的には、グローバルヘルスの介入をする団体(小規模な結果、より高い確率)への寄附から、存在リスクの軽減に対処する団体(はるかに大規模な結果、はるかに低い確率)に徐々に移行しました。
2016年から2018まで
2016年に、GiveWellの推薦チャリティーに寄附をし始めました。寄附した団体はGiveDirectlyとHelen Keller Internationalです。
寄附する価値が明確だったので、GiveDirectlyを選びました。お金を必要とする人に直接送金され、そのお金が生産的に使用されていることを示唆する証拠が多かったです。
GiveWellの費用対効果を評価するモデルを発見した後、Helen Keller Internationalに寄付することを選択しました。 私自身の道徳的価値をモデルに入力したら、「救われた命に相当する結果」あたりの最低コストがその団体でした。
2018年から2019まで
この頃、ブライアン・トマシクが書いた野生動物の苦しみの規模についていくつかの特に興味深いブログを見つけました。トマシクはSリスク(suffering risks, 将来の苦しみリスク)を防ぐための研究をするCenter on Long Term Riskを設立しましたので、その団体に資金を提供するEffective Altruism Foundationに寄付しました。
2019年6月以降
EAファンドにいくつかの寄付をしました。ほとんどの場合、 Long-Term Future Fundに寄付額の75%、Effective Altruism Infrastructure Fundに25%の割合で寄付しました。
また、ファームアニマルウェルフェアにフォーカスするThe Humane Leagueや蚊帳を配布するMalaria Consortiumにも少額の寄付をしました。
将来の寄付
「寄附するためお金を長期的に投資する」という議論は説得力があると思うので、Founder’s Pledgeが開発している長期的投資ファンドを追跡しています。 決まっているわけではないですが、短期的な将来の寄付は前述のEAファンドと長期的投資のファンドの組み合わせになるかと思います。
寄付額について
私自身は受け入れていませんが、5,000人以上「Giving What We Can」(https://www.givingwhatwecan.org/pledge/)というプログラムで収入の10%以上を寄付することを誓約しています。
私は2016年から2018年までの税引き後収入の約10%を寄付しましたが、それ以降は約7%に減少しました(2020年現在)。2018年以来、貯蓄に重点を置き、税引き後の収入の約33%を貯金しています。
次の2つのポイントを考慮して、寄付する金額を減らし、貯金する金額を増やすことになりました。
- 寄付するのに最適な場所だと思うところは、短期間でかなり大きく変わりました。 今、深い不確実性を認めています。
- 影響力のあるプロジェクトに取り組むと寄付より大きな影響を与える可能性がありますので、そのプロジェクトを自由に受け取られるようにお金を貯金した方がいいと思い始めました19。 プロジェクトを受け取る自由性があって、余裕のお金を持っている場合、寄付する選択肢はまだ存在しています。
脚注
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お金を寄付することは、世界を良くする1つの方法だけです。 莫大な金額を稼ぐことが比較優位である場合を除いて、特定の世界的問題に対するプロジェクトに取り組むことで、はるかに大きなインパクトを与えることができる可能性があります。 ↩
-
ウィリアム・マッカスキルが聞いた「The Definition of Effective Altruism」という論文からまとめました。 ↩
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道徳哲学では、本質的価値と道具的価値の間に顕著な違いがあります。 この区別の直感については、次のことを考慮しましょう。崇高な風景を考えてみてください。 この風景が存在するが、それを体験する人間や動物がないことを想像してみてください。その風景は、体験されていない場合でも価値がありますか? もしかして価値があると思っています。その場合、風景の何かが体験されなくても本質的な価値があります。体験されられない場合価値がないという意見もあり得ます。その場合、風景が道具的価値しかありません。人は風景の美しさを分かって、感情を感じ、最終的に何かを体験して、その体験自体が本質的な価値があります。 ↩
-
ほとんどの人は、福祉以外の本質的価値を持っているかもしれません。自分が持っている本質的価値を発見したい人にスペンサー・グリーンバーグが書いたこの記事がおすすめです。 ↩
-
道徳的不確実性への興味があれば、こちらをご覧ください(「Open Access」ボタンから無料でダウンロードできます)。 ↩
-
アンチエイジング研究の支持者には、オーブリー・デ・グレイとイーサリアムのクリエーターであるヴィタリック・ブテリンが含まれます。 ↩
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経済成長を促進する行動の代わりにRCT(ランダム化比較試験)によってテストできる介入に集中することに関して、EAコミュニティには反論もあります。 ↩
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https://www.givewell.org/sources/blog-post/q1-q2-2020-discretionary-funding-allocation#2 ↩
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このセクションの小見出しで、これは「小規模な結果」であると提案しましたが、これでも人命を救うことを忘れないでください。 ↩
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存在リスクの種類やそれぞれの可能性について興味がれば、Global Priorities Projectの論文と トービー・オードが書いた「The Precipice」がおすすめです。 ↩
-
既知のリスクに加えて、まだ概念化されていない未知のリスクがあり、それらも特定して解決する必要があります。 ↩
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「ヒンジ性」という言葉は明らかに日本語では意味がありませんが、今のところ直訳のままにしておくことにしました。 ↩
-
https://www.bbc.com/future/article/20200923-the-hinge-of-history-long-termism-and-existential-risk ↩
-
https://forum.effectivealtruism.org/posts/XXLf6FmWujkxna3E6/are-we-living-at-the-most-influential-time-in-history-1 ↩
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日本語と英語、EAの専門知識、少しのデーターサイエンス経験、少しの研究経験などのスキルの組み合わせはEAコミュニティーにまれであり、寄付だけでなく、これを使用してより大きな影響を与える可能性があります。 このスキルセットは、Mercy For Animals(以前はAnimal Charity Evaluatorsによって推奨されていた)との研究作業、およびまだ公開されていない他の作業につながりましたが、 貯金がなければそういうプロジェクトを受け入れることが難しいかもしれまん。 ↩